top of page
  • 執筆者の写真飯室淳史

日経BIZGATEセミナー解説資料その2

 つづき)辞令を開くと、なんと異動先はマーケティング部になっていた。しかも、私が泣かしたマーケティング部長が副社長に昇格して直属の上司になり、営業会議で大げんかをしたマーケティング担当者が席を隣にする同僚となったのだ。






■マーケティングへの異動は目からウロコだった

 その当時の私はマーケティングなんか大嫌いだったし、認めてなんかいなかったが、銀行出身だった社長の肝いりで編成された外人部隊のような、つまりマーケティングメンバーはすべて社外から社長が自分でヘッドハンティングしてきた人財で構成されていたエリート集団と社内では見られていたので、私の異動は「とうとうマーケティングが営業を認めて飯室が大抜擢された」と「飯室はマーケティングに左遷させられた」という声の両方が飛び交った。当の私は「もうマーケティングの奴らの好きになんかさせない、営業がマーケティングを鍛え直してやる」と思い上がった上から目線で意気込んで東京へ転勤する準備をしていた。


 新年となって1月6日から、いよいよ東京本社への出社だと思っていたら、副社長から「1月7日から1週間、スペインのコスタ・デル・ソルで、次世代クロマトグラフィー装置開発の国際会議があるから、会社に出社しないでいいから、そのまま日本の代表として出張に行ってくれる? 頼んだわよ」と連絡が来た。

わたし「いやいやいや、英語しゃべれませんから、無理でしょ」

副社長「なんとかなるでしょ」


 まさか、これがあの副社長を大阪の営業会議で泣かしてしまった時の仕返しだとは思わなかったが(笑)、「会社のお金を使って楽しく遊んでいる」と思っていたマーケティング業務の認識をあらためるほどの目からウロコの経験となるとは思わずにしぶしぶ引き受けた。


 1週間も何をするんだろうと不思議に思って英語の会議案内を見ると、なんと三日目に「Japan DAY」がある。どうやら日本市場に関する説明をプレゼンし、日本市場のトレンド、何が売れ筋なのか、競合状況、お客様のニーズ、お客さまの声、予算状況、日本での市場シェア、日本の研究者がこれから求めること、など朝から晩まで議論することになっているのだ。血の気が引いた。英語がしゃべれないとか言う前に、求められているプレゼン項目のデータをなにひとつ持っていないのだ。ど、ど、ど、どうしよう。


 唯一の救いは、データはないけど、営業としての生の顧客の声や市場の感触を持っているくらいだった、しかし数字で説明できるものなんかないのだ。背に腹は代えられない、これまで営業だったときにはさんざん協力をしてこないで、いじめてばかりいたマーケティングの同僚たちに頭を下げて、Japan Dayに必要なデータをまとめてメールしておいてくれ、スペインに着いたらそれを使ってプレゼン資料を準備するから、とだけお願いして成田空港から飛び立った。あてにはしていなかったが、マーケティングなんだから、それくらいのデータは持っていて当たり前だろう、と押しつけたのだ。


 飛び立ったのは土曜日だったが、時差のおかげで土曜日のスペインに到着したので、まるまる週末を使って資料を作るつもりだった。ホテルについてパッキングをひろげてPCを接続してメールを開くとちゃんと資料が届いているようだ。おや、パワーポイント資料になっている、どれどれ、あれ、これは・・・・そう、送ってくれたのはデータではなく完璧な英語で説明されたプレゼン資料だったのだ。Japan Dayに要求されている項目のすべてを完璧に満たした非の打ち所のないもの。しかも、プレゼン用の英語のスクリプト(原稿)まで添付されていて、私が棒読みすればいいだけの内容になっているではないか! さすが社長が肝いりでヘッドハントしてきただけのことはある。大阪の営業会議にやって来てしどろもどろと説明して私に嫌みを言われて萎縮する情けない姿と比べて、なんと頼もしいことか。私は日本が週末で休みであることもすっかり忘れて、営業経験を踏まえた実際のお客さまの声やこれからの市場トレンド、求められていることなどを日本語で書いて同僚に送りつけ「これも英語に翻訳してプレゼンに付け加えてくれ」とお願いすると、わずか三時間ほどで返事が返ってきた、完璧だ。あとで気がついたことだが、時差を考えると日本はもう真夜中だったはずで、しかも週末。マーケティングがこんなに頼りになるとは、と少し考えをあらためた。


 三日目のJapan Dayは、満身創痍でなんとか切り抜けて一定の評価をもらった。私は知らなかったのだが、日本の市場規模は世界の中で8%程度しかないのだそうだが、今回の会議テーマであったクロマトグラフィー装置においては、日本は世界の16%の売上を占めており、世界からは「どうして日本だけそんなに売れているのか?」とその秘密を知りたかったようなのだ。残念ながら、私は指摘されるまで知らなかったために、英語もひどかったが、的確に応えることができなかった。世界からの参加者は営業とマーケティングから半々だったが、唯一日本からは営業とマーケティングの両方の経験者と紹介されたようで、質問攻めにあった。正直、みんながなんと言っているか聞き取ることが出来なかったので、「私は英語をうまく聞き取れないので、訊きたいことを紙に書いてくれれば、読んで理解できるので英語で返事するよ」と筆談で会議をすることになった。


 そこで目にした光景は、私が大阪の営業会議でマーケティングをいじめていたのとは大違いで、営業とマーケティングがお互いに尊敬し合って、認め合って、議論していたことだった。各国の営業たちは「自分の担当地域のお客さまの生の声」に自信を持って語ることができ、マーケティングはそんな営業をとても信頼し頼りにしていたのだ。営業も自分たちは局所的な一部の声は知ってはいるが、それは全体ではないと認識していて、だからマーケティングが各国の市場全体を、そして世界市場での動向を理解して、どういう戦略をとるべきかを論じれることに敬意を払っていることが、英語のわからない私にも充分伝わってきた。彼ら営業とマーケティングはタッグを組んで一つのチームとなってお互いに自分たちが得意なことで支えあって協力して同じ目標に向かっているのだ。日本と全然違う、いや、私の認識と全然違うのだ。


 この会議の主題であった次世代の製品開発の議論から学ぶことも多かったが、マーケティングに異動したばかりの私が、世界各国の営業とマーケティングの関係と相互の認識を知ることが出来たのも大きな収穫だった。それは

  • 営業は担当する個別のお客さまの事業目標達成を支援するためのエージェントであり、そのために会社のリソースのすべてを駆使することで、自社が持つ有形無形の価値を提供し、お客さまを成功に導き、自社の売上を最大化する

  • 営業は、個別のお客さまの声を、不満を、ニーズをマーケティングにフィードバックする責任がある

  • マーケティングは市場全体を観て、お客さまのインサイトを理解して、そのペインポイントを満たす価値を創るために全社の全部署の全リソースを駆使する責任がある

  • その価値を何処の誰に、どう価値を伝えるのか、どんなコンテンツによって、どのメッセージを届けるのか、どの販売チャネルをどう使うのか、といった目標達成のための販売戦略を立案する

  • 営業はマーケティングの立てた販売戦略を完全遂行する

 大阪の営業だったときに、売上を上げている営業が一番偉くて、営業以外の部署は協力して当たり前で、営業は売上さえあげていればそれでいいと思い込み、マーケティングなんか宣伝と広告とキャンペーンをやってチラシをつくるのが仕事だ、マーケティングは営業の敵だ、と思っていた馬鹿な私からするとまさに青天の霹靂、目からウロコとはこのことだったのだ。

 

■マーケティング目線で見ると、営業は使い物にならない、と思えた

 マーケティングへの異動の初っぱなからそう言う洗礼を受けた私には、日本に戻ってマーケティング業務になれてくるうちに、だんだん自分のいた営業の問題点も見えてくるようになって、「あぁ、営業は使い物にならないな」とさえ思えてきた。それは

  • 営業は、いくらマーケティングが戦略的な製品ポジショニングをしようとも、自分が売りたいもの、売りやすいものだけを売る

  • 営業は製品を売っているだけ、お客さまの目標達成を支援するとか、そういうことはお客さまの仕事だと思っている

  • 営業は、売るまでが仕事で、お客さまの声をマーケティングに伝えるのは仕事だと思っていない

  • 目標数字の帳尻さえ合えば、何をどう売ろうが営業が決めれば良い

  • マーケティングの戦略は営業には関係がなく、販売戦略は営業が決めるもので、それに従ってマーケティングがキャンペーンや広告宣伝、チラシを考えるのがマーケティングの仕事だと思っている

つまり、私が営業にいたときにやらかしていたことが、こうやってマーケティングに異動して、グローバルでの営業とマーケティングの役割分担と連携を見てしまうと、私はなんと小さくてつまらない人間だったのかと、いま思いかえすだけで顔から火が出るほど恥ずかしい(再)。


■壊す

考えてみると、営業とマーケティングの間で、同じ目標を共有しているという認識がなく、同じ目標を達成するために協力をする、役割分担をするという認識そのものが存在していなかった。

  • 製品の価値を何処の誰に届ければ喜ばれるのか

  • その客のどんな問題をどう解決できるのか

  • その客をどう見つけるのか

  • 見つけたらどうアプローチするのか

  • その客にどう価値を提案するのか

  • 競合とどう戦うのか

  • どうやってクロージングするのか

  • 購入してくれた客をどうサポートするのか

  • 使い続けてもらうためにどうするのか

  • その顧客から何を聞きだしてくるのか

  • それを誰にフィードバックするのか

と言う一連のプロセスにおいて、何処をマーケティングが分担し、何処で営業にバトンを渡して、いつカスタマーサポートを巻き込むのか、そう言う取り決めも合意もしていないままだった。お互いに、これが自分たちの仕事だと思っていることを勝手にやっているに過ぎなかったのだ。この腐った固定観念、思い込みを「壊す」ことから始めなければならないようだ。


あなたの会社ではどのレベル?

  1. マーケティングが存在しない

  2. マーケティングを立ち上げたばかり

  3. まだ営業とマーケティングは連携できていない

  4. 営業とマーケティングが連携できるようになっている

 いかがだろうか?


つづく

bottom of page