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  • 執筆者の写真飯室淳史

日経BIZGATEセミナー解説資料その4

■前回のつづき

  • 多くの場合、技術的問題と適応課題の両方を同時に解決しなくてはいけなくなる。では、いったいどうすれば適応課題を解くことが出来るのだろうか?


私が知る限りでいえば、適応課題を解く普遍的で万能な魔法の杖のようなハウツー(方法論)はまだないようだ。そう言うと、ググってみたくなるのが人情だろうが、ググってみたところで、コレばかりは徒労に終わる。









■ハウツーの限界

 昔ながらのピラミッド組織では、決められたことを決められたとおりにする、同じことを繰り返す、誰がやっても同じ結果になるように、ハウツーがある、プロセスがある、マニュアルがある、管理者が必要になる、がそうなってくるともはや人間でなくても良いという話になる。決まった手順(ハウツー)が通用する世界は、高品質に、効率的に、高い生産性を求め、ロボットやRPA(ロボティックプロセスオートメーション)やAIによって取って代わられていくのだろう。そう言う意味では、我々が残業やルーチンワークから解放されて自由になるためにはハウツーが重要であるのは間違いない。事前の読み物3でも書いたように、「HOWは大切なことなので軽んじてはいけない、HOWがなければお医者さんに診断も治療もしてもらえない」ことから、やっぱりなんでもHOWでなんとかなるんじゃないか、HOWで解決できない問題などないんじゃないか?と実は私も思っていたときがあった。


 ただ適応課題には技術的な問題と違い、正解などないのだ。


■正解のない世界へ

 HOWが通じないだけではなく、正解もないとなると何をいったいどうすれば良いのか皆目見当が付かない、途方に暮れる、と思われるだろう。もはや、世界を航海するための海図はなく、手元にあるのはコンパスだけで、皆さんが進むのは、常に変化し続け、不安定で、不確実で、高度に複雑な、曖昧で不明瞭な世界なのだ。高度成長時代のように、未来が現在の延長線にあるわけでもなく、未来の予測など誰にもできなくなってしまった。


 皆さんもこの二週間ほどで「新型コロナウイルスの感染拡大」が世界を大きく変えたのを身をもって体験しているはずだ。この先の二週間でさえも、どうなるか、誰にも予測は付かないのだ。過去の体験や経験や成功事例を模倣すればなんとかなった世界ではなくなってしまったのだ。もちろん、そこには技術的に解決できる問題もあり、感染の拡大を防ぐ手立ては過去のインフルエンザや重症急性呼吸器症候群SARSで学んだ知識やスキルを活かせる部分は大きい。しかし、それだけでは感染の拡大を防げないのだ。技術的には、うがいや手洗いが有効だとされても、すべての人がまるでロボットがプログラムされたように必ず「うがいや手洗い」をするわけではない。それこそが適応課題なのだ。


 そう、技術的な問題は必ず解決が出来る、それはシステムや仕組み、プロセルやツールを修理、交換、改善、すれば済むからだ。技術力と時間とお金があればなんとかなるのだ。あぁ、それと情熱と忍耐も必要だ。しかし適応課題は、その仕組みを動かす人々自身が変化を受け入れ、環境の変化に適応できる自己変革能力を獲得することでしか解くことは出来ないのだ。事前にどう解けば良いのかやってみなければわからないことなのだ。


 それでも「適応課題を解く普遍的で万能な魔法の杖のようなハウツー」がないとは言い切れない。具体的にどうすれば良いのかはともかく、

  • 失敗を恐れず

  • リスクをとって決断

  • 失敗から学ぶ試行錯誤を

  • 成功するまで繰り返して

  • 個人も組織も学習する 以外に「適応課題」を解くHOWは無いのだ。


■失敗を恐れず

 コレは技術的には解決できない、「失敗を恐れるな」と命令しても無理なのだ。失敗を恐れる理由があるのだ。それは例えば、失敗することで、評価が下がる、上司に嫌われる、仲間に馬鹿にされる、二度とチャンスがない、給料も上がらない、昇進が出来なくなる、仕事がなくなる、失業する、という将来への不安が、失敗するくらいだったら何もしないでおこうと思わせるからかも知れない。精神的にタフになれと言ったところで、一夜にして変われるわけではないし、取り巻く環境が精神的に安心で安全でなければ、やはり失敗は怖いのだ。技術的に解決できることといえば、経営者や上司が、失敗を叱らない、失敗を責めない、失敗の責任を追及しない、失敗の責任を負わせない、それよりも、どうして失敗したのか原因を追及し、次にどうすれば改善できるのかを失敗から学び、もう一度挑戦する勇気を支えることだけだ。それでも、一夜のして組織の文化は変わらない、時間は掛かるのだ。


■リスクを取って決断する

 何がリスクで、何がリスクではないのか、やる前から100%判明していれば、これほど簡単なことはない。判断に必要な情報がすべて揃うまで行動に移らないとしたら、いつまで経っても始められない。なぜなら、状況は刻一刻と変化し、必要な情報はいつまで経っても集まることがないからだ。もしもすべての情報が集まって判断するのであれば、それは誰にでもでき、条件をセットしておけば機会にでも判断が出来ることだ。しかし、我々はすべての情報が揃わなくとも「決断」して、つまり判らないことがあって何が起きるか判らない、どうなるか判らないというリスクを取ってでも挑戦しなければ、いつまで経っても行動できないのだ。行動できなければ、当然ながら結果も出ないのだ。そう買わない宝くじは当たりもしなければ、ハズレもしないのだ。


■失敗から学ぶ試行錯誤を

 失敗を恐れないのは良いけれど、だからといって反省をしない、と言うのとは違うのだ。私がファシリテータとして関わったほとんどの日本企業において、この話をすると、真面目な顔して「飯室さん、うちの会社は絶対に失敗してはいけない会社なんです、だから失敗を恐れるな、なんて無理だし、失敗できないので、失敗から学んでる暇があったらとっととやり直せ、と叱られちゃいますんで勘弁してください」などと言われたことは一度や二度ではない。そもそも「失敗」という言葉がネガティブすぎるのだ。使わないほうがいいくらいだ。それは単なる試行錯誤実験の結果の一つに過ぎない。


■成功するまで繰り返して

 そうなのだ、実験の一つでしかないのだから、失敗してくよくよする暇があるなら、その結果から学べるものは学び尽くして、どうして上手くいかなかったのかを追求し、やり直すのだ、上手くいくまで何度でも。上手く行く前に諦めてしまうと成功しないが、上手くいくまで諦めずに試行錯誤し続ければ、いつかは成功するのだ。けっして諦めないことだ。だからつまり時間は掛かる。しかし、時間が無尽蔵にあるわけではない。出来ることなら、少しでも早く試行錯誤を繰り返して、失敗から学び倒して、ゴールにたどり着きたいものだ。しかし、いくらアジャイルに働こうとも、人が二倍、三倍、五倍、十倍とスピードアップできるわけではない。では、どうすれば加速できるだろうか?


■多様性の摩擦

 皆さんはおそらくは組織に勤めている人のはずだ。組織は、一人では出来ない仕事を成し遂げるために大勢の人が、高度に分業化された中で、同じゴールに向かって、役割分担をして、高い専門性を発揮しているはずだ。ただ、あまりにも複雑な分業化が、組織を分断し、見えない壁を作りあげ、縦割り組織と呼ばれる働き方を余儀なくされている。それでは、まるで個人商店の集まりのようで、組織として働く意味がないし、組織としてのチカラを存分に発揮できなくなっている。そこで個人の個性すなわち強みと弱みを活かして、各自の得意なことで仲間を助けあうのだ。組織の頭数の足し算ではなく、多様性のある個人の能力のかけ算となるように、組織を超えて、違い(摩擦)を尊重して、違い(摩擦)を活かして、一人では解決できなかったことを解決していく。


 例えば、12人のチームメンバーがいるとしよう。その中から4人で1グループを作ったときに、それぞれの個性と能力の違い(多様性)を掛け合わせることで、そのメンバー同士の異なる意見やアイデアをぶつけ合って、新しいアイデアを創るとしたら、その組み合わせのパターンは、(12 x11x10x9)÷(4x3x2x1)=495通りにもなる。きっと到底一人では出し切れないほどのアイデアが出ることだろう。一人ではなく、多様性のある仲間といっしょに、失敗を恐れずに、リスクをとって挑戦し、失敗から学ぶことで、試行錯誤を成功するまで繰り返すのであれば、最高で495倍までの加速が得られるわけだ。コレは机上の空論ではなく、実際に「ワークアウト(GE社の登録商標)」と呼ばれる「問題発見と解決の手法」があり、技術的課題から適応課題までを広くカバーし、組織文化の変革を加速してきた実績があり、講演では、限られた時間の中で、このワークアウトのツールを配布して実際に体験いただけるように準備中だ。ツールはお持ち帰りいただける。(オンラインの場合にはツールの配布はありません)


さて、


あなたの会社の現状は?

  1. 失敗は絶対に許されない

  2. リスクは取らない

  3. 失敗から学ばない

  4. 失敗を恐れずに、リスクをとって決断し、失敗から学ぶ試行錯誤を、成功するまで繰り返すことで、個人も組織も学習できている(たぶん、そう言う会社の人は聴きに来る必要がないはず)


 いかがだろうか?


ワークアウトを詳しく知りたいかたは、私の契約先企業向けの研修参加者に対する宿題(事前学習資料)のリンクを貼っておくので、ご覧いただくのも良いだろう、2万文字以上あるので、読む終えるにはけっこう時間は掛かる。



つづく

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