日経BIZGATEセミナー解説資料その3

最終更新: 7月8日

■これまでのおさらい

  • その0では、「問題」とはゴールと現状のギャップであること、「営業とマーケティングの連携」はゴールではなく手段でしかないこと、

  • その1では、現場の営業視点で見たマーケティングのこと、営業とマーケティングはお互いによく知らない、または知ってはいても理解できない、あるいは理解はしても価値観が違う、もしくは価値観は同じでも目指すゴールが異なること、

  • その2 では、営業からマーケティング担当に異動して目からウロコが落ちたこと、マーケティング視点で見ると営業が使い物にならないと思えたこと、営業とマーケティングの間で役割分担がなかったこと、

とさんざんだった。我ながら、ヒドイと思う。






■製品を売る営業からソリューション営業へ

 実は、そのむかし、私もソリューション営業、いわゆる提案型営業に憧れて、外部セミナーに出たり、流行の本を読んだりして、うちの会社は「ナンバーワン・ソリューション・プロバイダー」になるのだ、と恥ずかしげもなく社員に語り、実際にソリューション営業としてのトレーニングも行った。そこでは、「お客さまの問題を聞き出してこい」「なにかお困りのことはありませんか?」がキーワードだった。なんの疑問も持たず、こうした新しい方法論や営業ツールを取り入れれば、それなりの結果が出ると思い込んでいた。


 すぐに結果は出た。顧客別のカルテには、「お客さまの問題」がしっかりと書き込まれている。「これは凄い!」と喜んだのも、つかの間、ちょっと多すぎるのだ。お客さまの問題を聞き出すと、愚痴も不満も不平も悩みもすべて聞きだしてしまうことになったらしく、何が本当に一番の問題か、区別するのも難しいほどの量の「お客さまの問題」が山積みとなった。それらを集計して分類すると、笑い話ではないのだが、なんと「オタクの製品が高いことだ」がナンバーワンの問題になってしまった。ぜんぜんソリューション営業の糸口が見えないのだ。どうしてこんなことになってしまうのだ?


 「事前の読み物0」で最初に「そもそも問題ってなんだ?」で図解して解説したように、問題とは、ゴールと現状のギャップである。ただ、お客さまのゴールを確認しないまま、問題だけを聞き出そうとすると、お客さまの事業目標達成の障害となる問題点だけを聞き出すことが出来ないのだと理解するまでは、うちの営業のスキルが低いからだと営業のせいにしていた。上辺だけのソリューション営業のやり方をコピペして慌てて導入した報いがこれだった。


■聞き出すのは問題点ではなく、お客さまのゴール

 そこで変えるべきは、「売り上げに貢献するためにお客様の何を知っておくべきか」という点だ。いや、もっと言い換えると、「お客さまの成果を最大化するためには、お客さまを成功に導くためには、ソリューション提供者はお客さまの何を知っておくべきなのか?」である。


 営業支援システム(SFA)に入力する案件情報はだいたい何処も決まっている。

  • 訪問目的

  • 製品・サービスの種類

  • 会社名

  • 客先担当者

  • 受注見込み金額

  • 納期

  • 営業段階

  • 受注見込み

  • ランク

  • 商談時間

  • 過去の商談内容

  • 提案金額

  • 競合状況

  • 商談進捗

  • 次回アクション

こういうのはあくまで売る側の都合で知りたい情報でしかない。それはあくまで物品やサービスの購入の話でしかない。その情報を持っているからと言って、お客様をよく知っていることとはならない。


 コンサル型営業でも、課題解決型営業でも、ソリューション営業でも、お客様の問題を聞き出すことを目標にしてはいけない、順番が違うのだ。聞き出すのは問題ではなく、まずは「お客様のゴール」なのだ。


  • どこへ行きたいのか?

  • 何を目指しているのか?

  • そのプロジェクトのゴールは何か?

  • 何を成し遂げたいのか?

  • いつまでに、どれくらい、どのように、どうなりたいのか?

 これが、お客様から聞くべき最も重要な情報だ。


 そしてゴールと現状のギャップこそがお客様の真の課題であり、ゴール達成の前に横たわる大きな障害であるといえる。このギャップを解決してこそ、お客さまのゴールを達成できるのだ。


 つまり、営業支援システムに入力すべきは、お客さまのゴールであり、目的、目標であり、さらには現状、その上でゴール達成の問題こそSFAで管理すべきだったのだ。


 しかし、面白いことにお客さまに「ゴールはなんですか?」と質問して、即座に答えられる人は少なく、ハッキリと認識できていない、明確になっていない、目標金額しか知らない、何をするかという作業しか知らない、と言うことがほとんどだ。高度に分業化されて、自分が何をするか、と言う刹那的で目の前の目標しか認識しておらず、自分の会社が、いったいどんな事業目標を達成して、社会にどんな価値を提供して貢献しようとしているか、それを認識して仕事をしている人は極めて少ない。


あなたの会社では?

  1. お客さまの問題を聞き出すこともない

  2. お客さまの困ったことは聞き出すようにしている

  3. お客さまのゴールを聴き出すことはない

  4. お客さまのゴールを聴きだして、パートナーとして伴走している(きっと、そこまで出来ているなら、こういうセミナーを聴きに来ることはないのだろう)

 



■システムを導入したのに誰も使ってくれない

 上の事例で「営業支援システム(SFA)」の話が出たが、それだって決して簡単に導入できたわけではない。


 SFA導入の前に、まずは社内SNSの導入(たとえばChatterやKintone、SlackやTeams、Yammerなどのこと)から始まった。最初に新しもの好きの私がいたマーケティング部門だけで試験運用し、極めて業務効率とチームワークとコミュニケーションの活性化が顕著だった。


 この結果に色めきだったのはマーケティングだけではない。営業本部長も経営陣も、たかが社内SNSの導入で全社の業務効率やチームワーク、そしてコミュニケーションが活性化され、各部門の連携が強化されれば、特に営業とマーケティングの連携が改善されるなら、安いモノだ、とすぐに全社展開が決まった。


 しかし、マーケティングは内勤であり、非定型業務を単独で自己完結する仕事を抱える社員が多かったことと、常にPCを使って仕事をする仕事ばかりだと言うことも新しいツール導入が成功した要因であったことを理解できておらず、定型業務部門や外勤の営業や技術サービス部門も同様に使ってもらえるものだと思っていたのが大きな間違いの素だった。


 マーケティング部門以外からは極めて不評なのだ。

  • メールで充分ではないのか?

  • メールと社内SNSをどう使い分けるのか、判らない

  • 見る物が増えて仕事にならない

  • どうせ新しもの好きの飯室さんの気まぐれだから、しばらくすると飽きて使わなくなるから、本気で取り組まないほうがいい

  • メールと社内SNSのどちらが、会社としての公式なコミュニケーションルートなのか、つまり見てもみなくてもかまわないのはどちらなのか?

 

 システムだけではない。こうした社内SNSを外勤営業が社外の客先や移動中にもアクセスするには、「営業活動の邪魔になる重たいノートPCを持ち歩かないとイケナイので、社内SNSは実質的には使えない」などと言い出す始末だ。確かにガラケーでは社内SNSのアプリは使えないので、最新のスマートフォンやタブレット端末が必要である。そう言われたら、売り言葉に買い言葉で、決して安くはないiPhoneとiPadの両方を全営業に支給することを決断した。


 もうこれで文句なく使ってくれるだろう安心し、1ヶ月後の営業会議に顔を出すと、未だにガラケーを首からさげている営業が半分以上いるではないか? それを問いただすと、営業からの返事は「飯室さん、スマホはガラケーほどバッテリーが持たないので、通話が多い営業には、とても使い物になりません。ですから、ガラケーも手放せないし、スマホはバッテリが持たないから社内SNSも満足に使えないんですよ」と言い放った。

 

 そのあと、営業マネージャー3名がやって来て「飯室さん、営業部では、営業活動の邪魔にしかならないので、正式に社内SNSは使わない、と全員一致で決まりましたのでご報告に上がりました」とまで言ってのけたのだ。


 実際に、営業が社内SNSを我先にと大喜びで使うようになるまでには、ここから2年の月日が必要だった。


■馬を水飲み場に連れて行くことはできても、馬に水を飲ませることはできない

 こうした私の失敗、すなわちせっかく新しいツールやシステムを導入しても、当事者が使ってくれなければ、結果が出せないのは、あちこちで見受けられる。これはまさに、

  1. 馬を水飲み場に連れて行くことはできても

  2. 馬に水を飲ませることはできない

という言葉の通りなのだ。




このパターンを使うと

  1. SFA(営業支援システム)を導入できても

  2. 営業に使わせることはできない

にも当てはまるし、同様に


  1. 組織の構造や制度やシステムやプロセスや戦略を変革できても

  2. 人々の意識や価値観や行動様式といった文化までは変革できない



■「馬を水飲み場に連れて行く」は技術的問題

 これは、技術的に問題や困難や障害を解決するだけのHOWな方法論であり、単なる手続きに過ぎず(もちろん、HOWは大切なことなので軽んじてはいけない、HOWがなければお医者さんに診断も治療もしてもらえない)、これを『技術的問題』と呼ぶ。身近なことで言えば、寒いから暖房を入れる、暑いから冷房を入れるのも技術的な問題の解決方法だと言える。


 お医者さん、弁護士、建築家、研究者、プロの料理人などのエキスパートと呼ばれるような専門家の助言によって解決できる問題のことだ。おそらく、組織で働く高い経験値を持つ人ならば、この「技術的問題」の解決は、日常茶飯事でモグラ叩きばかりしているだろうから、慣れているだろう。そう、技術的な問題解決は、私たち日本人はめっぽう得意で、さまざまな工夫とイノベーションで、これまで乗り越えてきたことなのだ。いっぽう、


■「馬に水を飲ませることはできない」は適応課題

 これは技術的な問題と違って、社員そのものが内部から変わることを求められている(もちろん一般社員だけではなく経営者も同様である)。環境の変化を受け入れて、環境変化に適応する、意識を変える、価値観を変える、マインドセットを変える、行動様式を変える、いろいろな言い方をするが、要は自己を変革をすることが求められている。「馬に水を飲ませることはできない」と同様に、無理矢理に自己変革を強要しようとしても、本人にその気がない限り、人は変わらないのだ。これを『適応課題』と呼び、技術的問題とは区別している(参照:ロナルド・ハイフェッツ教授〜NHKリーダーシップ白熱教室〜)。


 この技術的な問題を解決するだけではなく、人が環境に適応して変わることが求められる「適応課題」を解くことこそが最大の難関である。人財育成にしろ、変革にしろ、リーダーシップにしろ、働き方改革にしろ、営業支援システムや社内SNSやマーケティングオートメーションのシステムやツールの導入から、それこそ「営業とマーケティングの連携」も「デジタル変革」までもが、すべてが「適応課題」という大きな壁に阻まれているにもかかわらず、最も手をつけられないままで(あるいは適応課題そのものを知らないか、適応課題に気がつけないままか、適応課題の解き方を知らないかという理由で)放置されている部分なのだ。


意識や価値観や行動様式といった文化まで変革する

 残念ながら、機器やシステムのようにONとOFFのスイッチがあるわけでもなく、人の意識や価値観や行動様式といった文化を変える方法が書いてある教科書やマニュアルやプロセスがどこかにあるわけではない。


 また機器やシステムのようにお金を出せば、いつでも手に入るものとは違って、時間がかかる。「じゃ、3ヶ月の研修でナントカ変えてね、頼んだよ!」という具合に、お金を出しても世界共通で万能な魔法の杖のような方法論が存在するわけではないのだ。


 そして、多くの場合、技術的問題と適応課題の両方を同時に解決しなくてはいけなくなる。では、いったいどうすれば適応課題を解くことが出来るのだろうか?


つづく



あなたの会社の現状は?

  1. 技術的な問題の解決さえままならないで困っている

  2. 技術的問題と適応課題は、まだ区別されていない

  3. 技術的問題は解決できても、適応課題に苦労している

  4. すでに両方が解決できている(そう言う人はたぶん聴きに来ないのだろう)

 いかがだろうか?


つづく

 

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