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  • 執筆者の写真飯室淳史

事後の読み物 その3名古屋会場Q&A②


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質問2

もう一点、PIVOTをはじめに決めとくって大事だと思ったんですが、ともすると、じゃ、方針転換や撤退を前提にこういう大事なことを始めるのか? と、抵抗感というか、そういうことを言い出す人がいるんですが、当然リスク回避のためにも必要だというのはわかるのですが、そもそも始めないほうがいいんじゃないかと言われてしまったら、そういう場合にはどう対応すればいいでしょうか?


どうしてそう思われるのですか? と訊いてみる

もしも、「方針転換や撤退を前提にこういう大事なことを始めるのか?」と問われたならば、黙って頷いてしまわないで、勇気を持って「どうしてそう思われるのですか?」と聞いてみると言い。どうして質問したのか、と言う意図が明確でなければ、憶測で「そういう場合にはどう対応すればいい」のかなどと考えたところで、トンチンカンな対応しかできないのが落ちだ。相手の意図を誤解したまま受け止めて、対抗策を考えるのは愚の骨頂だ。


考えられる理由(相手の意図)は、「PIVOT=方針転換や撤退の条件をプロジェクトを始める前に決めておくと言うことは、まるで上手くいかなければさっさと尻尾を巻いて逃げる口実をあたえることになる」と考えているのかもしれない。


もうひとつは「PIVOT=方針転換や撤退の条件をプロジェクトを始める前に決めておくと言うことは、まだこのプロジェクトを開始するには準備が不充分で、海のものとも山のものともわからないようなプロジェクト提案に投資などできない、きちんと100%成功できると確信が持てるようになってから出直して来い」と思っているのかも知れない。

もはや未来は予測できない


予定調和の、決めたゴールを達成すれば間違いなく上手くいく、延長線上に未来がある、そんな夢のような世界に私たちは住んでいない。


PIVOTを決めなかったことで26億円の損害

私のとっておきに失敗談というか、私ではなく私がいた会社の失敗談であるが、その昔、もう10年以上前の話だ。その時点の5年前に「3年かけて新製品を開発して市場へ投入する」というプロジェクトが結局は3年が5年もかかって、その新製品が市場に出てきたときには5年前の古い設計思想の製品でしかなく、しかもその間に性能10倍で値段が10分の1の他社製品が市場を席巻していた。


せっかく26億円かけて開発したその新製品プロジェクトを、日本が市場投入を大反対したにもかかわらず、誰にも止められなかったのだ。つまりはPIVOT誰も最初に決めていなかったのでサンクコスト(埋没費用ともいい、事業に投資した人・時間・お金のうち、この方針転換もしくは撤退によって戻って来ない=回収できない投資)が膨大になり(26億円+人材投資+時間)、誰もが未来は延長線上にあると信じ(自己欺瞞)させてしまう(取り戻せない)サンクコストが経営判断を誤らせた。


そこから、さらに数億円かけて、その新製品のための製造工場までつくってしまい、さらに損害を炎上拡大させてしまったのだ。この製品は5年の歳月ととんでもない投資をして市場へ投入し、世界で半年かけてもたった2台しか売れずに、プロジェクトメンバー50人全員が首になって終了した。26億円もかけてしまった時点で止めておけば、製造工場建設費用や時間を無駄にしなかったはずだが、もはやだれも止めることができず、断崖絶壁に向かって死の行進を続けたのだ、PIVOTがなかったために。


PIVOTは最初にプロジェクトメンバー全員+経営陣と合意しておかないと、後からは、このサンクコスト効果によって、誰もまともな判断ができなくなる、それは投資金額だけではなく、プロジェクトメンバーの感情や情熱や想いも錯綜し、誰一人として、「このまま前進すれば、崖が待ち構えていて、全員で崖から飛び降りて死ぬことになる」ことが見えているのに、「もはやここまで来たら方針転換や撤退はあり得ない」と誰もPIVOTの決定を行わず、討ち死にするのだ。


これは「方針転換や撤退をせずに初心を貫徹した素晴らしいチーム」として賞讃されるべきなのだろうか?

方針転換や撤退を前提にこういう大事なことを始めるのか?」と言う問いは、まるで「間違っているとわかっても目をつぶって、死の行進を続ける覚悟がなければ、プロジェクトを開始するな」と言っているようでさえある。間違いを認めて、方針転換や撤退を決断のできない経営者の会社は、遅かれ早かれ、消えて亡くなる。


未来は自分たちが創る

そうしたことが予想できない経営陣ばかりだとは思えないが、「方針転換や撤退を前提にこういう大事なことを始めるのか?」と言う問いには、YESであり、100%正解を誰かが知っているなら、それを黙々と粛々と作業をすれば良いだけだが、そんな夢のような高度成長時代はもう何十年も前に終わっている。


もはや3ヶ月先でも1週間先でも、何が起きるかわからない凄まじいスピードで変化し、不確実で、複雑で、曖昧なVUCAな世の中では、未来など予想はできない、そうだ、予測をできないならば自分たちで未来を創るしかないのだ。


方針や撤退を決してしないと誓う事に何が意味があるのだろうか? 絶対に成功できる準備が整うまでスタートしなければ、そうした変化の早い世界では、置いてけぼりを食らってしまうし、私が経験したように5年も古い設計の新製品を市場へ出したところで、見向きもされないのだ。


ここまでずっと失敗から学ばず、「失敗してはいけない」と教わって身につけてきた高度成長時代に成功してきた経営者達は、会社の事業目標達成は真面目に働けば誰でも手にできる成果であり、目標を達成できないのは、誰かがサボって仕事をしないからか、誰かが失敗したからだ、と言う理由で経営判断して、今まで生き残ってきたのであれば、事業目標達成は当たり前であり、

・失敗することはしない

・リスクは取らない

・絶対に成功することだけをやる

・失敗したら人生お終い

・成功がすべて

なんて言う価値観で会社を経営しているのかも知れない。


これは、「行動しなければ結果も出ないが、行動しなければ失敗することはない、だから何もしない方が良い」とでも言っているかのようだ。


そう、完全に目標が異なっているのだ。

事業目標達成よりも、やらないメリット(絶対に失敗しない)、やるデメリット(失敗するかも知れない)に重きを置くと、絶対に成功するプロジェクトにしか投資しなくなる。


しかし、やるメリット(ゴールを達成できる+失敗するかも知れないが失敗から学べることで成長できる)に重きをおいて、やらないデメリット(自らチャンスを逃し、失敗から学ぶこともなく、個人も組織も成長できなくなる)に危機感を覚えることができるならば、リスクを取って前に進めるはずだ。


その上で、間違いに気づかずに、全員で死の崖に向かって更新し続けないようにするためにも、PIVOT=方針転換や撤退条件をあらかじめ来ておく必要がある。


それはモグラ叩き

方針転換や撤退を前提にこういう大事なことを始めるのか?」と問われたから、「どうすれば良いだろうか?」と対策を考えるのは、結局は刹那的で視野狭窄なモグラ叩きでしかない。今回、なんとか、モグラ叩きをしてやり過ごしたところで、根本的な部分は何も解決していないので、また次回には同じようなことを言われてしまうだろう。それが単にそうした質問をする人の個性や性格によるものだ、とか、個人に依存する行動様式だと捉えてしまう限りはモグラ叩きからいつまで経っても抜け出せない。これまで、そうした言動を許してきた企業文化が根付いている限りは、毎回毎回四苦八苦して説明する羽目になり、それはそんな企業に属している限りは永遠に続くのだ。


皆が同じゴールに向かって、価値観を共有し、同じ理解を持って、同じモノを見て、お互いの異なる(多様性のある)個性や特技や強みを活かして協力し合って、ゴールを達成できる、そうした企業文化に成長しない限りは、いつまで経ってもどこかで誰かが「方針転換や撤退を前提にこういう大事なことを始めるのか?」と言い出すことになる、おわかりか?


適応課題を解決する

結局、これも技術的に解決する問題ではなく、適応課題なのだ。


何度も言うが、

  • 失敗を恐れず

  • リスクを取って決断し

  • 失敗から学ぶ試行錯誤を

  • 成功するまで繰り返し

  • 個人も組織も決断する


こうしたことを踏まえた上で、「そういう場合にはどう対応すればいいでしょうか?」には、自分の頭で考えて、対応してみると良いだろう、失敗するかも知れないが、その失敗から学べればみっけものだ。


つづく(名古屋会場でのご質問は全部で10件ありました)


ご質問ありがとうございました。


福岡会場の皆さん!! どんな質問でも悩み相談でも、勇気を持ってぶつけていただければと思います、よろしくお願いいたします。


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