飯室淳史

2020年1月9日5 分

日経BIZGATEセミナー解説資料その1

最終更新: 2020年7月8日

 私が32年間働いていたのは外資系のバイオテクノロジー会社で、お客さまである製薬企業と大学に研究開発用の装置や試薬を販売する営業を16年ほど経験した。

■売り上げをあげるために営業は存在する、と思っていた

 私が東京で営業を始めてから5年ほどしてから大阪営業所に転勤となり、所長代理をやっていたときのことだ。月に一度の西日本営業会議に、東京からマーケティングがやって来るのが気に食わなかった。たいして客先にも行ったことのない連中が、偉そうに製品販売戦略を語り、どんなお客さまをターゲットに、どうやって製品をアピールするのか、競合との差別化ポイントはどこなのか、というプレゼンをする。だが、自分で一度も売ったこともないマーケティングなんかに教わることはなにひとつないとさえ思っていた。だから、彼らの説明の言葉尻を捉えては難癖をつけ、「そんなやり方で売れるものか、自分で売ってから出直してこい」とコテンパンにして東京へ追い返すのが恒例行事になっていた。一度はマーケティング部長を泣かしたこともある。なんと幼稚な振る舞いだったのかと、いま思いかえすだけで顔から火が出るほど恥ずかしい。

 そもそも、その当時の私はマーケティングがいったいなんなのか、よくわかっていなかった。学術部門のように製品に特別に詳しいわけでもなく、どうせ「英語が話せて、本社と連絡を取れるからいるだけで、それ以外の役には立たない」と思っていた。営業から見えるマーケティングは、新製品が出るとなれば、英語の資料を翻訳して、価格を決めて、カタログを作成して、営業の目標台数を決めて、新製品キャンペーンをプランして、学術雑誌に宣伝を載せ、学会や展示会ではおそろいの告知用ポロシャツを着て新製品お披露目をして、それでおしまいだ。マーケティングが展示会イベントで集めてくる名刺や商談リストなんかで売れた例しがなく、毎月の目標数字の達成で締め上げられ苦労をしている営業からすると、まるで会社のお金を使って楽しく遊んでいるようにも見えて、誰でもできる仕事だと思って馬鹿にしていた。

 だから、私はマーケティングの鼻を明かしてやるつもりで、大阪営業所のトップ営業たちの成功事例を耳にすると、そのノウハウを製品パッケージにしてチラシを創り、東京にいるマーケティングには内緒で、大阪営業所独自の販売キャンペーンを展開し始めた。マーケティングの机上の空論とは違って、トップ営業たちが苦労して見つけた販売ノウハウだったからか、かなりの成功を収めることができた。調子に乗った私は次から次へと大阪だけのキャンペーンを仕掛けて、「マーケティングなんかいなくても営業はやっていける」ことを証明できたと思い込みますます頭に乗った。そのうちにマーケティングが勝手に大阪のチラシを真似して、全国展開キャンペーンを始めることがわかって、私は「人のふんどしで相撲を取るなら、もうマーケティングなんかいらない」と毒づいて営業会議の席上で大げんかになった。大阪に転勤してから4年が経った12月初旬だったのを覚えている。

 この年は自分勝手な大阪独自のキャンペーンのおかげもあって、大阪営業所は無事に営業目標も達成して、良い気分で年が迎えられると思っていた年末の最終日に、東京からいきなり辞令が届いた。あぁ、これでようやく東京へ戻れる、と思って辞令を開くと、なんと異動先はマーケティング部になっていた。しかも、私が泣かしたマーケティング部長が副社長に昇格して直属の上司になり、営業会議で大げんかをしたマーケティング担当者が席を隣にする同僚となったのだ。

■実は、営業はマーケティングのことなんか全然知らなかった

 これをお読みの皆さんが、こんなひどい「営業とマーケティングの連携」の問題を抱えているとは思えないが、どうしてこうなってしまうのか一緒に考えてみてほしい。

 私のどうしようもなくひねくれた性格はさておき、私を始め営業の多くはこう思っていた(はずだ)。

□売り上げをあげている営業が会社に最も貢献している(営業が一番偉い)

□営業以外の部署は営業に協力して当たり前(営業の指示には従え)

□営業は売り上げさえあげていればそれでいい(営業が一番大変なんだ)

 こんな営業だけの基準でマーケティングに接すれば、営業が必要だと思っていないマーケティングの役割や仕事を「知る」気にもならないし、たとえ知ったところで「理解する」気にもなれない。もしも理解はしたとしても「価値観」が違えば相容れない。万が一でも同じ「価値観」を持っていたとしても「ゴール」が異なれば結局は「営業とマーケティングが連携する」ことなどできない。

■測る

「測れないモノは改善できない」の言葉通り、まずはあなたの会社の営業とマーケティングの関係はどのレベルなのか、簡単なアセスメントで測ってみよう。そうすれば、どうやって関係を改善できるのかも見えてくる。

あなたの会社ではどのレベル?

  1. お互いをよく知らない

  2. 知ってはいるが理解はできない

  3. 理解はするが価値観が違う

  4. 価値観は同じであるがゴールが異なる

 いかがだろうか? すべてをクリアできている(お互いのことをよく知っていて、理解できており、同じ価値観を持ち、同じゴールを目指している)のであれば、きっと「営業とマーケティングの連携」はうまくできているか、うまくできる可能性があるはずだ。

 もしもひとつでもクリアできていなければ、「営業とマーケティングの連携」は絵に描いた餅でしかなく、いつまで経っても歩み寄ることなどはない。